脳を知る・創る・守る・育む 13
開会挨拶
 NPO法人脳の世紀推進会議副理事長 金澤 一郎
 本日は早朝から天気のよいところお越しいただき、ありがとうございます。脳の世紀シンポジウムは第19回になります。成人する寸前の、ある意味では緊張感のただよう年です。思い返しますと、18年ほど前の平成5年に第1回脳の世紀シンポジウムを、今でも基本的にはそうなのですが、脳科学を研究する人たちへの応援団のような形で開催しました。当時、文部省の脳科学分野の研究班の班長数人が、この特定非営利活動法人の理事長である伊藤正男先生を中心に集まりました。そのとき、ご記憶のある方がおられるかもしれませんが、ちょうど細川内閣が発足しました。私たちの仲間の一人が細川総理のところにメッセージをいただきにまいりましたところ、細川護煕首相は大変はりきっておられ、メモをくださいました。そこには、脳科学に関連して、知情意は脳の機能として非常に大事である。人間社会にもまた大事である。そこまででもありがたいお話でしたが、それに続けて、政府はこの脳科学を推進する義務がある、とまで書いてくださいました。
 私たちはちょっと驚きました。このようなところまで言及していただいてよいのかと思ったくらいです。大変心強いお言葉をちょうだいしたわけです。事実、その後も発展を続けてきました。一時、研究費のサポートという意味では少しへこんだ時期もありますが、数年前から脳科学委員会を文部科学省の内部に組織していただき、特別の「まなざし」を向けていただいております。
 この特定非営利活動法人「脳の世紀推進会議」は、あくまでも脳科学を志す、あるいは研究しておられる方々の支援、サポーターとして年に1回このようなシンポジウムを開催しております。
 今回はある意味で特別なシンポジウムになりました。一昨年は、ある意味で平和な時期でありましたので、将棋の棋士たちが次の一手を考えるとき、脳はどうなっているのかといった大変興味深いテーマで、いろいろな講演がありました。羽生名人にもおいでいただいてお話も伺いました。そのように一つのテーマで、できるだけいろいろな方面からご意見をお伺いすることは大変有意義であるということがよくわかりましたので、今回もできればそのような方向にしたいといっているうちに、3月11日にとんでもないことが起こったわけです。私たちも講演者の方々においでいただくについてずいぶん悩みました。その結果、今回は東日本大震災と脳科学との関連について少しお話しいただこうということで企画しました。
 つらい現実を見つめながら、次の世代、次々期の世代に希望をつなぐという意味で、脳科学を考える必要性を考えたのです。将来の世代に希望をもってもらうということは、ある意味で今の世代のわれわれにとって義務なのではないか。楽観的なものをある程度示すことは、われわれの義務ではないかということを最近、親しくしている経済学者から聞き、なるほどと思った次第です。現在を嘆くのはできます。しかし、将来に対して希望をつなぐ方向で考えていくことは、きわめて重要な任務であると思っている次第です。その意味で本日の山折先生をはじめとして、脳科学の研究者の方々の話も、必ずや皆様方になんらかの希望をもっていただく「よすが」になるのではないかと期待しております。
 どうぞごゆっくりとお話を聞いていただきたいと思います。本日はおいでいだき誠にありがとうございます。