こころを育む脳の働き−育て、守る−2004世界脳週間の講演より−
私は小児科医で、小児の発達を中心に診療してきました。こころの問題、コミュニケーションの問題というと幅が非常に広くなるため、ここでは自閉症と呼ばれているお子さんたちの行動の不思議さを、脳の機能とからめてお伝えしたいと思います。

子どもの脳の障害は、どんなときにわかるのか
脳の機能を調べるアプローチとしてはいろいろありますが、私は、通常であればできるはずのことができなくなっている、すなわち障害といわれる状態から、普段行っている行動に、脳のどのような機能が必要であるかを推察するアプローチをとっています。
大人の障害は、ある意味で、わかりやすいものです。これまでできていたことが、何らかの病気でできなくなると、どこの病気が原因であるかがはっきりとわかります。
しかし、子どもの障害はそのようなわけにいきません。しかるべき時期に、しかるべきことができないといったかたちで障害に気づくことになります。一般的に、子どもがある年齢に達すると、あることができるという前提、つまり物差しがあります。その物差しをもとに、その年齢に達してもそれができないときに障害が疑われます。たとえば、一歳ほどで歩けるようになる子が多いのに、一歳すぎても歩けるようにならなかったり、一歳半ほどから周りの子はお話しができるようになっているのに、一歳半になってもお話しができないといったとき、通常の発達をとげていないことから障害とされます。長い経過をみないと、発達が通常コースであるかどうかはわかりません。
子どもたちの長い経過をみるためには、自分も長生きをする必要があります。幸いにも私は長生きをしているため、最初のころにみた子どもたちが成人になって、どのように成長されたかをみて(こういう研究をフォローアップ研究といいます)、改めてわかったことも少なくありません。そのあたりの話をしだすと何時間でも話してしまうため、今日は、ほんとうに導入だけを紹介することにします。